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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)2050号 判決 1990年10月31日

原告

川本ゆきみ

被告

水野勇

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇八万三四五七円及びこれに対する平成元年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三九七万四五六八円及びこれに対する平成元年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し自賠法三条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 昭和六一年一〇月二三日午後三時二五分ころ

(二) 場所 名古屋市守山区大字大森字天子田三丁目一五〇一番地先路上(別紙図面参照)

(三) 加害車 被告運転の自動二輪車

(四) 態様 原告は、本件事故当時観光バスガイドとして勤務中であつたが、客の遺留品を届けに行くため、前記路上に観光バスを停車させて降車し、同バスの前方約一・五メートルのところを北から南へ横断歩行中、同バスの右側方を後方から進行してきた加害車に衝突されて路上に跳ね飛ばされた。

2  責任原因

被告は、加害車を自己のために運行の用に供していた者である。

二  争点

被告及び補助参加人は、原告の傷害の内容・程度及び後遺障害並びに損害額を争うほか、原告にはバスの影から突然飛び出してきた過失があるとして、過失相殺の抗弁を主張している。

第三争点に対する判断

一  傷害、治療経過及び後遺障害

1  傷害及び治療経過

原告は、右腎臓破裂、顔面挫傷、両下肢挫傷の傷害を受け、名古屋市第二赤十字病院に事故当日の昭和六一年一〇月二三日から同年一二月六日まで四五日間入院し、同月七日から昭和六二年二月一八日まで(実通院日数五日)通院した(甲五の一及び弁論の全趣旨)。なお、原告は、当初の二日間は意識が低下し、絶対安静の重傷状態であつた(甲五の一)。

2  後遺障害

原告は、右腎臓の三分の一が破裂により機能停止となり、その症状は昭和六一年一二月六日固定した(甲二、甲三の一ないし六、甲四、証人安藤正)。

二  損害額

1  治療費(請求も同額) 一五九万七七五四円

原告と被告との間に争いがない。

2  付添看護料(請求七万六〇〇〇円) 六万六五〇〇円

原告は一九日間の付添看護を要し、母親がこれに当たつたが(甲五の一、甲九)、その看護料は右金額(一日当たり三五〇〇円)と認めるのが相当である。

3  入院雑費(請求も同額) 四万五〇〇〇円

一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、四五日間で右金額となる。

4  通院交通費(請求も同額) 二万九三五〇円

原告は右金額を支出した(甲一〇の一)。

5  休業損害(請求三七万四七三一円) 三〇万六五〇二円

原告は、本件事故当時、瀬戸観光自動車株式会社にバスガイドとして勤務し、事故前三か月の収入は一か月二五日稼働して一日平均五三五三円を得ていたが、前記傷害の治療のため、右会社を昭和六一年一〇月二三日から同年一二月三一日まで欠勤せざるをえなかつた(甲一一)。したがつて、原告は、本件事故により、合計三〇万六五〇二円の休業損害を被つたことが認められる。

(25÷31×9+50)×5,353=306,502

6  後遺障害による逸失利益(請求一五〇万九三六〇円)

(一) 腎臓に、<1>水分の排泄を加減して体内に水分量を一定に保つこと、<2>体内の代謝によつてできた分解産物や有毒物質を尿に排泄すること、<3>血液中の成分を正常に維持し、血液の酸度を一定に維持すること等の機能を有し、人間の生命や健康の維持のための根幹となる臓器である(弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著)。そして、健全な腎臓であれば左右一対の四分の一程度になつても、人間の生命・健康の維持に必要な腎臓の機能は最小限度は保たれる(証人安藤正)。したがつて、原告のように、右腎臓の三分の一の機能が失われても、腎臓そのものの疾患その他特別な疾病等による影響でも生じない限り、原告の健康の維持には支障がないことが認められる(証人安藤)(なお、右のような特別な事情までをも予想して検討することは困難であり、また相当でもない。)。

(二) しかし、腎臓が人体の根幹臓器として前記の如き機能を有している以上、左右一対の腎臓が完全に機能している方がそうでない場合よりも生命・健康の維持に果たす役割は蓋然的に高いことは否定しえないと考えられる(証人安藤)。したがつて、この健康度の蓋然性に対する期待と精神的安心感は保護に値するものと解するのが相当であるから、これが侵害された場合には損害賠償の対象となりうるというべきである。

(三) そうすると、被告は、原告に対し、前記後遺障害に対する損害を賠償すべきであるが、その保護法益が右に述べたような性質のものであつてみれば、これは原告の労働能力への影響という観点からは把握し難いものであり、慰謝料問題として処理するのが相当であると考える。

7  慰謝料(請求―入通院同額、後遺障害一五七万円)

(一) 入通院慰謝料 八〇万円

前記認定の原告の受傷の部位・程度、入通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

(二) 後遺障害慰謝料 一三〇万円

原告の前記後遺障害による損害は慰謝料問題として処理するのが相当であると解することは前示のとおりであるところ、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表によれば、「胸腹部臓器に障害を残すもの」は一一級一一号とされていることを参考としつつ、原告の腎臓損失の程度や原告が症状固定時未だ一九歳の女性であつたことなどを考慮すると、右一一級一一号に対する保障金相当額(症状固定時の基準額)の約二分の一である一三〇万円をもつて相当と認める。

三  過失相殺

1  甲一及び被告本人によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の状況は、別紙図面記載のとおりである。本件道路は最高速度が時速四〇キロメートルに規制されている。被告からの見とおしは前方及び左方ともよい。

(二) 被告は、加害車を運転して、別紙図面記載のとおり、本件道路を時速約四〇キロメートルで進行し、本件事故現場付近にさしかかつた際、前方に停車中の観光バスを認め、その右側方を通過しようとしたが、警笛も吹鳴せず、右速度のまま進行したため、観光バスの前方を左(北)側から右(南)側に横断しようとして歩行中の原告を左前方約六・三メートルの地点に認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、<×>地点で加害車の左ハンドル付近を原告に衝突させた。

(三) 他方、原告は、客の遺留品を届けに行くため、観光バスから下車し、その前方を北側から南側へ漫然と横断し始めたため、<×>地点で加害車と衝突するに至つた。

2  被告は、停車中の観光バスの右側方を通過しようとしたのであるが、このような場合、車両の運転者は、警笛を吹鳴して右バスの前方を横断しようとする者に警告を与えるとともに減速徐行して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ、被告は、これを怠り、前示のように、警笛も吹鳴せず、時速約四〇キロメートルのまま進行して本件事故を生じさせた過失がある。

他方、原告には、停車車両の前方を横断する際、その側方を通行して来る車両の有無に注意しなかつた過失がある。

3  双方の過失を対比すると、原告の損害額から二割を減額するのが相当である。

したがつて、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、三三一万六〇八四万円となる。

四  損害の填補 二三二万七六二七円

原告が損害の填補として受領した右金員(原告と被告との間に争いがない。)を控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、九八万八四五七円となる。

五  弁護士費用(請求三〇万円) 九万五〇〇〇円

原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は訴状送達日(平成元年九月二〇日であることは記録上明らか)の翌日の現価に引き直して九万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、原告の請求は、一〇八万三四五七円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成元年九月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 寺本榮一)

図面

<省略>

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